2012年2月20日月曜日

映画「オレンジと太陽」を観て

☆★☆★☆ジム・ローチ監督の作品「オレンジと太陽」(原題「オレンジ・アンド・サンシャイン」、2010年、英豪合作、106分)を試写会で観た。原作は、英ノッティンガム在住のソーシャルワーカー、マーガレット・ハンフリーズの著書『からのゆりかご-大英帝国の迷い子たち』。

   ★4月14日から東京・神田神保町の「岩波ホール」をはじめ、全国で順次公開される。

   英国政府が児童養護施設などに預けられた白人児童を長年にわたって、制度的に旧英植民地(その後の独立国)に移住させていた史実を、移住先を豪州に絞って描いている。

   1973年まで存続していた悪名高い人種差別政策<白豪主義>の一端を強制的に担わされていたのは、不幸な子どもたちだった。この過酷な歴史的事実を突きつけられ、胸が痛んだ。

   この事実を暴き出した原作を踏まえた、極めて重要にして重厚な劇映画である。

   豪州政府は09年11月16日、英国政府は10年2月24日、それぞれ事実関係を認めて、首相が国会で謝罪した。

   是非、観ることをお勧めしたい。だから内容には触れない。主演エミリー・ワトゥソンが独自のマーガレット・ハンフリーズを創り出している。

   原作の邦訳書は、日本図書刊行会発行、近代文藝社発売で刊行されている。

   この映画について紹介する日本語の冊子は、内容豊かな秀作だ。付記しておきたい。

   この<児童移民>の史実から私が想起したのは、キューバ革命翌年の1960年11月、CIA、カトリック教会などの陰謀で、キューバ人児童1万4000人が米国に連れ出され、その多くが不幸な人生をたどることになった<ピーターパン作戦>である。

   この<作戦>の犠牲者と、切り離された親族の過去半世紀余りの生き方をジム・ローチのような監督がたどれば、優れた作品が生まれることだろう。また、それによって、当時の米当局の関わった策謀があらためて暴き出されることになるはずだ。

        映画であろうが、調査報告であろうが、制作されねばならない。<ピーターパン作戦>という人道犯罪の第一義的な責任者である米国人と、子供を連れ去られた当事者キューバ人が協力して解明すべき歴史的課題である。