ウルグアイのホセ・ムヒーカ上院議員(前大統領)は4月5日、ルシーア・トポランスキ夫人(上院議員)および、ムヒーカについて書かれ最近刊行された訳書『権力に着いた異端児』(邦題「ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領」、角川文庫)の共著者2人と共に初来日。6日朝、東京・富士見町の角川ビル内での記者会見に4人そろって臨んだ。
一言居士として名高いムヒーカは冒頭、「80歳の身に長旅はきつい。観光のためだけに来ることはできない。経済や技術が高度に発達した日本に人類の未来を見ることができるのではないか、という問題意識を持ってやってきた。日本人が果たして真に幸福かどうかも確かめてみたい」と述べた。
質疑では最初に私(伊高)が、コルバタ(ネクタイ)をしないムヒーカの「無ネクタイの哲学」を本人に訊いた。ムヒーカはゆっくりと、かつ滔々と語った。結論的には、「ネクタイの彼方にある価値が大切だ」ということだった。
これまで会った世界の首脳たちの中で誰がいちばん印象に残るか、という質問には、「チェ・ゲバーラだ」と答えた。現存する首脳、元首脳らについては言及を避けた。
2014年12月、米玖両国は国交正常化合意を発表したが、そこに至る過程で、ムヒーカは、バラク・オバーマ米大統領とラウール・カストロ玖議長との間でメンサヘ(メッセージ) の受け渡しをとりもった。会見で問われ、その事実を語った。
大統領時代に大麻栽培を許可したことについては、「合法化したのではなく、政府の目が届くように規制管理しただけだ」と述べた。麻薬の闇市場の存在を無視できず、規制の範囲内で大麻の栽培を認めた。「麻薬より悪いのは麻薬取引であり、麻薬常習からは逃れられるが、取引(麻薬マフィア)の一度入ったら抜け出せない。若者をマフィアに渡すわけにはいかない」と強調した。
持論の「幸福論」もたっぷりと展開した。「人間は物質、金(かね)、欲望、権力、名誉のために生きるのではなく、幸福であろうとするために生きている。生きていることは奇蹟なのだ。このことを若い世代に考えてもらい、よりよい世界を築いてほしい」と、若者たちに託す希望を発信した。
日本で人気が沸騰していることに関してムヒーカは、「おそらく古い日本文化にあって、西欧化によって隠されてしまっている部分と通底している価値を私が語るからではないか」と分析した。
都市ゲリラ時代からの同志であるルシーア夫人は、夫の魅力を訊かれて、「政治家は目先の利益を考えて言動するが、夫は利害でなく理想や信念で動く。その点だと思う」と答えた。
共著者アンデレス・ダンサとエルネスト・トゥルボビッツは、著書と訳書が遠いウルグアイと日本の文化・友好の橋を懸けたと指摘、そのお陰で日本に来ることができたのが嬉しい、と述べた。
ムヒーカは、築地魚市場見物、東京外語大生との対話、前記新訳書署名会、テレビ番組出演、観光などを続け、12日離日する。
★ムヒーカ来日時の発言などの取材記は追って雑誌などで伝えたい。