▼▼▼▼▼アルゼンチン大統領クリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル(CFK)は12月28日、「反テロリスタ法」と「パルプ・新聞用紙法」を公布した。両法とも12月22日に国会で成立していた。
<テロリスト>を取り締まるとする「反テロリスタ法」は、米国を筆頭とし亜国も加盟する政府間の「資金洗浄およびテロ組織の金融活動」を取り締まる機関「国際金融活動集団(GAFI)」=(英語で)「金融活動行動部隊(FAFT)」の規定に国内法を整合させるための大幅改定刑法の通称。
「人民と国家にテロの恐怖と影響を及ぼした者に最高15年の禁錮刑」などの罰則がある。人権団体や市民団体は、「政府に反対する市民を<テロリスト>と捉えるなど、拡大解釈の恐れがあり、違憲だ」と反対しており、29日には、大統領政庁前の五月広場で反対運動が展開された。
ペロニスタ政権党主流派キルチネリズモ(キルチネル路線)内にも亀裂が生じつつある。CFKの亡夫で前大統領のネストル・キルチネルの政権に始まるキルチネリズモの熱烈な支持団体である「五月広場の母たちの会」のエベ・デ・ボナフィニ会長さえも、五月広場での「反テロリスタ法」反対行動の場で、同法への反対を表明し、政府に見直しを呼び掛けた。
同会長は、「私たちは、誰もが<テロリスタ>にされてしまった軍政時代の悪夢を経験している」と語った。反対する市民たちは、軍政下での国家テロの恐怖を忘れていない。
数年前、自民党政権時代に日本の国会で審議された「共謀罪」取締法案に日本市民が抱いた危機感に通じるような意識を亜国市民は抱いている。つまり新法を弾圧法、悪法として捉えているのだ。
CFKは前日、甲状腺癌にかかっていることと1月4日に手術を受けることを発表し、同情を買ったばかり。その驚きも冷めやらない間の新法公布だった。
一方、「パルプ・新聞用紙法」は、新聞用紙の生産・販売・配布を「公益」と位置づけ、用紙配分の公平化を期すためとされる。だが、これまで用紙の多くを使ってきた大手新聞社は「反政府論調の封じ込めだ」と激しく反発している。
亜国には、新聞用紙を生産する「パペル・プレンサ社(PP)」がある。その株は、最大発行部数を誇るクラリン紙を発行するクラリン社が49%、2番手のラ・ナシオン紙を出しているラ・ナシオン社が22・49%、合わせて71・49%を握っている。政府は27・47%を保有する。
両紙以外の地方紙など計168紙は、15%割高でPPから買うか、輸入用紙を買うかしてきた。用紙需要の16%は、輸入されてきた。
新法によりPP社は、最大生産能力で生産し、経済省が定める価格での販売を義務付けられる。また、生産能力を維持・拡大するため、3年ごとに用紙生産計画を策定し実施するのを義務付けられる。最大生産能力を発揮すれば、輸入は不要になるという。
大手両紙をはじめメディアの間では、「反テロリスタ法」が、用紙配分をめぐる政府政策に従わないメディアの弾圧に応用されるのではないかと危惧する声も出ている。
ラ・ナシオン紙は1870年創刊の老舗紙で、保守の立場を貫いてきた。1945年創刊のクラリン紙は体制派だが、CFKと数年前から対立してきた。両大手紙は少なくとも、用紙確保に際して、政府政策に従来よりも気配りしなければならなくなったと言えるだろう。