2017年5月12日金曜日

 米政府が対ベネズエラ「クーデター作戦」の「心理戦争」段階入りか。マドゥーロ大統領は制憲議会開設反対者を「クーデター支持者」と非難。ウルグアイは「反ベネズエラ十字軍」に反対▼グアテマラで戒厳令発動

 米政府の諜報・謀略機関CIA(中央情報局)のマイク・ポンペロ長官は5月11日、上院諜報委員会で、ベネスエラ情勢について証言。同国政府系の「武装集団」(コレクティーボス)が規制なしに活動する危険性が毎時高まっている、と述べた。また、ベネスエラでは武器が大量に出回っており、同国のみならず南米と中米にとっても脅威だ、と語った。

 これらは実態からかけ離れた極めて大げさな指摘であり、CIA教本「独裁から民主へ」の政変(ゴルペ・デ・エスタード=クーデター)誘発戦術の第4段階「心理戦争」に該当する。事態は危険な局面に徐々にのめり込みつつある。

 ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDは、米戦略に従って、破壊活動を伴う反政府街頭行動を展開中。まさに教本および、米南方軍文書、米国務省に影響力を持つ米シンクタンクの文書の内容に沿ってMUDは動いている。

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権は4月半ば、MUDの言動が明確にゴルペを目指していると判断。破壊活動など重罪容疑者を軍事法廷で裁くことも含むゴルペ制圧作戦「サモーラ計画」で対処している。

 マドゥーロ大統領は11日、「制憲議会(ANC)開設のため実施中の対話に応じない者はゴルペ支持者だ」とし、「一にMUD、二に経団連、三はカトリック司教会議だ」と指摘した。

 政権は、憲法改正のためのANC開設を決定。進行中の国内各分野と広範な準備対話を重ね、6月にかけてANC議員選挙公示、直接投票実施にもっていきたい構えだ。この対話が拡がり、選挙が実施され、ANCが開設され、改定憲法起草と事が運べば、MUD、内外メディア、米国・反ベネスエラ諸国、米州諸国機構(OEA)が煽ってきた反政府行動は沈静化すると期待している。

 首都カラカスでは10日、27歳の青年が直径2cmの銃弾を狙撃手から見舞われて死亡した。大統領は、「MUDは狙撃手を使って市民を殺した。ファシズム戦略の一環だ」と非難した。

 さらに、MUD系ら富裕層の子弟が通うことの多い私学について、「憎悪、人種主義、暴力、反祖国を煽っているため捜査を命じた」と明らかにした。

 ベネスエラ外務省は11日、声明を発表。米国務省のフランシスコ・パルミエリ米州担当次官補が10日、MUDの主張と同じ「選挙による解決」を口にしたのを受けて、「米国は資金と兵站支援をベネスエラの暴力集団に与えてきた。その暴力的反政府勢力を善導するためANCを招集するのだ」と反撃した。

 声明は、「この暴力状況はOEA会議が4月3日、ベネスエラに対する敵対的内政干渉政策を決議したのに起因する。米国務省は同決議を用いて、最も暴力的で反民主的な勢力を支援してきた」と糾弾。

 さらに、「米現政権がブッシュ、オバーマ両政権の誤った対ベネスエラ政策を踏襲したのは遺憾だ」と表明。「米政府は今年に入ってから、ベネスエラの実情を捻じ曲げた敵対的声明を計105回発してきた」と述べた。

 MUDの街頭行動での別働隊の若者たちは数日来、糞便を瓶、プラスチックカップなどの容器に詰めた「ププトフ」を治安部隊に投げつけている。「モロトフカクテル」(火炎瓶)の「モロトフ」の「モロ」を、糞を意味する「ププ」に替えたものだ。当局は、これを「生物テロ兵器」と見なした。

 ララ州都バルキシメト市イリバレン区のアルフレド・ラモス区長は11日、反政府行動を取り締まらなかったためとして、区議会で弾劾された。カラカス首都圏のチャカオ、エルアティージョ両区長も暴動を制御しなかったとして、区民から告訴された。

 ベネスエラにとっての朗報は、ウルグアイのタバレー・バスケス大統領が10日、「ベネスエラを孤立させない、米州民主憲章を同国に適用しない、同国をOEAから追放しない。ウルグアイは反ベネズエラ十字軍に与せず、それに一石を投じる立場をとる」と決定したこと。ロドルフォ・ニン=ノボア外相が発表した。

 ウルグアイは、ベネスエラ政府の対話同伴国5カ国に属している。

 チレの左翼政党連合FA大統領候補ベアトゥリス・サンチェスは11日、マドゥーロ政権について「独裁ではない。人民から選挙で選ばれた」と指摘した。チレでは11月19日、大統領選挙が実施される。

 パナマのイサベル・サンマロ副大統領兼外相は10日、米州がOEA重視派とCELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)重視派に分極化するのを懸念し、分極化しないよう、米州諸国に呼び掛けた。

 リマでは11日、MUDの顔、フリオ・ボルヘス国会議長がPPクチンスキ(PPK)・ペルー大統領に会い、「ベネスエラの民主移行のため、ラ米諸国・機関の代表になってほしい」と要請した。PPKは断ったが、MUDの主張に理解を示した。PPKは、亜国のマウリシオ・マクリ大統領と並ぶD・トランプ米大統領のお気に入りで、反ベネスエラの中核にいる。

 マクリは11日ブエノスアイレスを出発、アラブ首長国連邦、中国、日本への歴訪の旅を開始した。中国では14~15両日の「一帯一路」構想首脳会合に出席する。来日は18~20日。

▼ラ米短信   ◎グアテマラで戒厳令発動

 グアテマラのジミー・モラレス大統領は5月11日、西部のサンマルコス、イスチグアーン両県に30日間の戒厳令を敷いた。メヒコ国境地方の県で、マヤ系先住民人口が多い。古くからの土地問題をめぐり住民同士が衝突。またメヒコ系武装麻薬マフィア組織の侵入もあり、戒厳令発動となった。