2017年5月14日日曜日

 トランプ米大統領にベネズエラ侵攻の誘惑高まるか。「コロンビア国境に米提供の武器集積、傭兵待機」とハバナ放送伝える。マドゥーロ大統領は「18年(末)に大統領選挙実施」と言明▼キューバが大規模な海岸線防衛演習実施へ

 ベネスエラへの米軍主導の軍事侵攻の危険性が高まっている。ドナルド・トランプ米大統領は、FBI長官更迭とロシア関連疑惑捜査をめぐり窮地に陥る可能性があると伝えられるが、窮地に陥れば「起死回生」策として、ベネスエラに軍事侵攻し、ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派革新政権を倒す誘惑に駆られる可能性も高まることになる。

 ハバナ放送は5月13日、ベネスエラ西部国境沿いのコロンビア・ノルテデサンタンデル州ラゴンバリアに、国務省をはじめ米機関が提供した武器・兵站物資が集積されている、と伝え、米軍がコロンビア国内7カ所の軍事基地を使用している事実を指摘した。

 同放送はまた、国境線沿いの他の複数の地点に、軍事侵攻に備えて傭兵部隊が待機していると報じた。ベネスエラで逮捕されたテロリズムや破壊活動の実行犯にはコロンビア人の極右準軍部隊要員(パラミリタレス)が多く含まれている、とも伝えた。

 ブエノスイアレスでは11日、フェリーペ・ゴンサレス元スペイン首相が元首脳たちの会合で、「マドゥーロはベネスエラを腐敗国家、失敗国家にした」と断言した。これは「失敗国家」呼ばわりし、「軍事侵略やむなし」とする世論形成を狙ったもので、米軍事侵攻教書に盛り込まれている。

 かつてフランコ独裁後のスペイン民主化の旗頭だったフェリーペに、その面影はない。すっかり安楽な保守・右翼路線に乗ってしまっている。「元首脳陣を宣伝に使う」ことも、まさに侵略教書に盛り込まれている。

 米国が強大な影響力を持つ米州諸国機構(OEA/OAS、加盟33カ国および脱退宣言したベネスエラ)は15日ワシントンの本部で大使会議を開き、ベネスエラ情勢を討議する特別外相会議開催日程と場所を決める。ベネスエラは出席しない。

 外相会議が開催されれば、ベネスエラへの「米州民主憲章」適用、ベネスエラ脱退取り消し、「ベネスエラ追放」などが議題となり得る。同国に不利な決議がなされれば、軍事侵攻圧力は一層強まることになる。

 マドゥーロ政権の重鎮エリーアス・ハウア教育相(制憲議会=ANC=担当大統領委員会委員長)は12日、知識人との会合で、「反政府勢力はANC開設のための対話を拒否し、マドゥーロ大統領打倒だけを求めている。状況は疑いなく内戦に向かって進んでいる」と指摘した。反政府勢力の中核は、米政府と連携している保守・右翼野党連合MUDである。

 続けてハウアは、「反政府勢力指導部(MUD)は、米政府の最も反動的な勢力の指示の下に、兄弟殺しを促進しつつある」と、厳しい認識を示した。「ベネスエラに内戦が起きれば、ラ米全体が、がたがたになる」とも述べた。

 さらに、「彼ら(MUD)は、経済・社会が混乱していた時期には勝てると思って選挙実施を要求していたが、今はANC議員選挙を拒否している。現在の事態が彼らの挑発によってもたらされているため、彼らには都合が悪いのだ」との見方を打ち出した。

 ハウアは、「国家は合法的権力をもって平和構築に努めており、現在の最重要課題は、経済再建によって、ボリバリアーナ革命の最初の10年間のような繁栄の水準に到達することだ」と強調した。

 ローマ法王庁のピエトゥロ・パロリン国務長官は13日、法王フランシスコが訪問中のポルトガルで「ヴァティカンの立場は、ベネスエラ危機解決の方策は選挙実施だ」と述べた。

 マドゥーロ大統領は12日、「18年(末)に大統領選挙がある」と明言。同大統領の任期は19年初めまでであり、18年末には選挙が不可欠だ。

 大統領はまた、「街頭暴動(グアリンバ)は国土のわずか1%で展開されているだけだ。14年にはグアリンバを制圧するのに5カ月かかった。現在ファシスト右翼を打ち負かしつつあり、彼らは決定的敗北に向かっている。ゴルペ(クーデター)と武装蜂起に執着する輩には正義の鉄槌を下す」と強調した。

 マドゥーロ政権は体制固めの一環として、1月から「祖国身分証」を発給。13日までに1325万4000人が同身分証を取得した。この身分証所持者は、ミシオネスと呼ばれるさまざまな社会福祉政策を享受できる。政権には、有権者固めの狙いがある。

 首都カラカスをはじめ、各地でMUD派の抗議行動や暴力が断続的に続いている。カラカスでは10~11日に、政権支持派集会に参加していたチレ人左翼活動家ホセ・ムニョス=アルコオラが、2人組の殺し屋に機銃掃射され即死した。

 ムニョスは、ピノチェー軍政下のチレで「革命的左翼運動」(MIR)要員として軍政と戦い、その後、ニカラグア革命・内戦、コロンビア内戦で戦い、クーバにも滞在した。父親は治安警備隊大尉で、故サルバドール・アジェンデ智大統領の護衛だった。

 チレ「貧民ゲリラ軍」(EGP)の創設者でもある。ボリバリアーナ革命のベネスエラでは、チャベス派として活動していた。ムニョス暗殺は、外国諜報機関の指示があった可能性を示唆している。この事件発生は12日公表された。

 ベネスエラ最高裁は12日、右翼政党「新時代」(UNT)党員一人がカラカスで、自動ライフル銃FALを所持していたことなどから逮捕され、軍事法廷にかけられると発表した。

 外務省は13日、コロンビアの首都ボゴタ市が、ロック祭へのベネスエラ人歌手ポール・ヒルマンの参加を拒否したことに抗議した。ヒルマンはチャベス派政権支持の音楽家として知られている。

▼ラ米短信   ◎クーバが沿岸警備演習実施へ

 クーバの革命防衛委員会(CDR)と国境警備隊(TGF)は5月12日、CDR所属の「海洋監視分遣隊」(DMM)とTGFによる海岸線全域での合同作戦演習を15~19日に実施すると発表した。クーバ女性連盟(FMC)など大衆組織も参加する。

 この合同演習は12回目。ベネスエラ情勢が不安定な時期に実施される今回は関心を集めている。