ホルヘ・エドゥワーズ著『ペルソナ・ノン・グラータ』(好ましからざる人物)を読んだ。初版が1973年だから、実に40年後に日語訳が出たことになる。松本健二訳、現代企画室。9月30日刊。
1970年代初頭のカストロ・キューバ体制の内幕がよくわかる好著だ。70年のグランサフラ(砂糖1000万トン生産)計画が850万トン止まりで失敗したことで苛立つフィデル・カストロ、その八つ当たりの感じが無いわけではない71年3月以降の詩人エベルト・パディージャ逮捕~自己批判事件の実態、「反革命派」を血眼になって探す秘密警察の暗躍などが克明に描かれている。
著者は、誕生したばかりのアジェンデ社会主義政権から、チリ大使館開設を命じられハバナに赴いた外交官・作家である。キューバの政情と文化社会状況の観察に基づくルポルタージュの長編だ。フィデルと著者との駆け引きが特に面白い。
当時39~40歳だった著者は、必要以上に秘密警察の仕打ちに神経質になりすぎた感は否めず、その点がややナイーブだが、結局は無難に乗り越え、次の任地パリに去っていく。
革命体制の運営が袋小路に陥っていた時期のキューバを知る上で、極めて興味深い本だ。マリオ・バルガス=ジョサ、カルロス・フエンテス、パブロ・ネルーダ、ニコラース・ギジェン、レジス・ドゥブレ、チェ・ゲバーラらも登場する。(12月に書評が出る。)