2013年8月4日日曜日

映画「ハンナ・アーレント」を観る


 ユダヤ系ドイツ人で米国に帰化した哲学者ハンナ・アーレント(1906~75)の半生を、1961年のアドルフ・アイヒマン裁判傍聴と63年の裁判報告の時期に焦点を合わせて描いた実話の再現である。極めて興味深い作品だ。

 映画は、アルゼンチンに潜伏していたアイヒマンがモサドに拉致される衝撃的な場面から始まる。ユダヤ人でありフランスで強制収容所に入れられ殺される前に脱出した体験を持つハンナは、裁判傍聴を決める。

 ハンナは、アイヒマンが無思考で命令や任務を淡々とこなす平凡な官僚であったことを見抜き、「悪の陳腐さ」について雑誌ザ・ニューヨーカーに連載する。さらに、強制収容所でユダヤ人幹部がナチに協力していた事実を暴く。

 米国や世界中のユダヤ人社会から総すかんを食らったハンナだが、真実は真実として主張を守り通す。迫力のある場面が続く。

 その間、学生時代の恩師マルティン・ハイデッガーとの不倫の恋や、夫、友たちとの葛藤も描かれる。

 ハンナはチェーンスモーカーだった。画面であっても、あまりにもたばこを吸い続けるのが大いに気になったが、本人は実際に心臓麻痺により69歳で死んでしまった。

 監督・脚本のマルガレーテ・フォン・トロッタは、「思考する女性をいかに描くか」で腐心したと述懐する。「ハンナは一目惚れするような女性だった。フェミニズムの対極に居る女性だった」と指摘する。

 物語は、まだ生々しい現代の一部である。現代史と人間の生き方を考えるうえで貴重な作品であり、観ることをお勧めしたい。

【10月26日(土)から東京・神田神保町の岩波ホールで公開される。】