メヒコ南部のオアハカ州一帯に生きる先住民族チョンターレスの詩を編んだ『チョンタルの詩』を読んだ。ラ米の本が何千冊もある、とある部屋で偶然見つけた本だった。
私は、それを手に取って驚き、感激した。何と、故・荻田政之助が収集した詩の訳詩集だったからだ。仁術歯科医で、メヒコの貧しい人々から「ドクトル荻田」と呼ばれ慕われていた荻田先生は、私のメヒコ時代に欠かせない何人かの日本人の一人だった。大変お世話になった。
深夜、遅すぎる晩餐を御馳走になり、メスカルを飲みながら、チョンタルの詩について何度も話を聞いた。それが高野太郎の手によって本になったのだ。
1981年11月に誠文堂新光社から出ていたのだが、ようやく手にして読んだのだ。
1976年初め死去したドクトルにあらためて感謝の気持ちを捧げつつ、この詩集から一篇を紹介する。
「歯の出る時うたう歌」
歯が出てきました
もう出てきました 私の歯
だから私はうたいます
だから歌をうたいます
レオンよ レオンよ
おまえの歯を私におくれ
私の歯をおまえにやろう
おまえの歯を私におくれ
私の歯をお前にやろう
おまえの歯は堅く 厚く 真っ白だ
おまえの歯で私は食べよう
そうして おまえは食べるのだ
私の歯で