オンドゥーラスの著名な環境活動家ベルタ・カセレス(45)が3月3日未明、同国ラ・エスペランサ市内の自宅を2人組に襲われ、銃弾4発を見舞われて殺された。遺体は同日、首都デグシガルパの遺体置き場に空輸された。
事件の目撃者であり事件時に負傷したメキシコ人社会学者で、カセレスらと人材を育成していたグスタボ・カストロは重要証人として保護されている、という。
カセレスは、この国最大の先住民レンカ人で、母親ベルタとともに1993年、NGO「オンドゥーラス人民・先住民団体市民協議会」(COPINH)を結成、ダム建設や鉱山開発への反対運動の先頭に立っていた。
カセレスらの運動により、グアルカルケ川をせき止め、アグア・サルカ水力発電所を建設する事業計画は中断を余儀なくされた。こうした功績によて彼女は昨年4月、ゴールドマン環境賞を受賞した。グアルカルケ川は、レンカ人にとって「聖なる川」である。
この事業計画は、鉱山開発などに不可欠な電力を生産するため政府が推進、地元住民らに事前に諮らず情報も公開せずに、オンドゥーラスのエネルギー開発会社(DESA)に建設権を与えた。
この事業への参画を決めていた中国企業シノハイドロ社は、住民の反対が強いことを理由に撤退し、世銀会社「国際融資」(IFC)もこれに続いた。
カセレスらの闘争過程で、レンカ人の活動家3人が殺害された。カせレスは4人目の犠牲者で、最も重要な指導者だった。
政府は、グアルカルケ川の上流でダムの建設工事を実施する計画に変更することを検討中で、さらに別のカンヘル川でも同様の事業計画がある。これらの計画に対してもカセレスは闘争を続けていた。
このため政府や事業の関係者から恨まれ敵視され、殺害、誘拐、家族迫害、でっちあげ犯罪容疑などで絶えず脅迫されていた。だが彼女はひるまなかった。
カセレス殺害を「政治的暗殺」と捉える内外の環境、人権、司法などのNGO、とりわけ地元中米諸国の諸団体は一斉に、オンドゥーラス政府に対し「必要な身辺警護をしていなかった」などと厳しく批判している。
この国では2002~14年に環境活動家111人が殺されている。昨年もかなりの活動家が殺された。
非難の的となっているフアン・エルナンデス大統領は、「事件はオンドゥーラスに対する犯罪であり、無処罰はあり得ない。米政府の協力を得て捜査する」と約束した。