2011年12月21日水曜日

第42回メルコスール首脳会議

▼★▼★▼「南部共同市場」(メルコスール)首脳会議が、ウルグアイの首都モンテビデオで12月20日開かれた。同国およびアルゼンチン、ブラジル、パラグアイの加盟4カ国大統領と、加盟手続き中のベネズエラおよび、加盟申請したエクアドールの両国大統領も出席した。

    中心議題は、ベネズエラの加盟問題だった。新規加盟には、原加盟国の国会による批准が不可欠だが、同国のウーゴ・チャベス大統領を毛嫌いするパラグアイ野党コロラード党が上院で多数派を形成し、批准を阻み続けている。ベネズエラは06年に加盟申請し、3加盟国の批准は得ているが、パラグアイ国会野党に妨害されているため、加盟できないでいる。

    コロラード党は、かつてのストロエスネル長期独裁政権を支えた右翼・保守政党で、大地主、大企業など富裕層が執行部を握っている。

    首脳会議議長のホセ・ムヒーカ大統領(ウルグアイ)は、ベネズエラの早期加盟に道を開こうと「加盟条件の簡素化」を提案した。クリスティーナ・フェルナンデス亜国大統領は賛成した。

    だが、ブラジル高官が、簡素化を決めたところで、各加盟国の国会が承認しないと発効せず、批准と同じ問題が起きると指摘し、頓挫した。

   フェルナンド・ルーゴ大統領(パラグアイ)は、ベネズエラ加盟に賛意を表しながらも、自国の制度(国会批准)を尊重したいと、言わざるを得なかった。もしムヒーカ案に同調すれば、国会から弾劾され罷免される公算が大きくなるからだ。

   結局、首脳たちは、各国大統領が任命する「高級特別委員会」を設置し、解決策を練ることになった。チャベスは、「ある国の少数者が一国の加盟を阻止するなど前例がない」と不満をあらわにしながらも、「いずれは加盟する」と言うに留めた。

   一方、エクアドールのラファエル・コレア大統領は、正式に加盟申請をした。コレアは他の首脳たちとともに、加盟国が民主体制を護持すべきことを謳う「モンテビデオ議定書」に署名した。

   首脳会議は、アルゼンチン沖の英植民地フォークランド諸島(亜国名マルビーナス諸島)の旗を掲げた船舶のメルコスール域内の港への入港を禁止することを決めた。亜国は、同諸島の領有権を主張しており、1982年4~6月、当時の軍政が戦争を仕掛け、一時的に諸島を占領したが、英国に敗れた。

       首脳会議はまた、パレスティナ国家と自由貿易協定に調印した。

   首脳会議の半年交代の輪番制議長は、ムヒーカからフェルナンデスに移った。新任期はマルビーナス戦争30周年の時期と重なるため、フェルナンデスが諸島問題を際立たせることが予想される。諸島はウルグアイ、チリと航路を結んできたが、今後はチリだけとなる。

   首脳会議のさなか、亜国代表団の一員だったイバン・ヘイン経済省通商次官がホテルの自室で首つり遺体で発見され、大騒ぎになった。捜査と解剖の結果、ウルグアイ司法当局は、本人に自殺を図る理由はなかったとし、裸体だったこともあり、性的行為のさなかに事故死した可能性を指摘している。

   メルコスールがベネズエラの加盟を望むのは、同国の潤沢な原油と天然ガスなど資源が長期的に重要であることと、同国の港を通じてメルコスールがカリブ海に出口を確保することになるからだ。

         ベネズエラにとっては、加盟すれば<影響力>が南米の深奥部にまで及ぶことになる。また広域経済基盤としても重要だ。チャベスはALBA(米州ボリバリアーナ同盟)と、「ペトロカリーベ」の盟主だが、いずれも加盟国は経済的には弱小国ばかりで、ベネズエラの<持ち出し>で運営されている。伯亜両国が主導するメルコスールならば、<互いに認め合う仲>でやっていける。

   さらにチャベスは加盟によって、伯亜両国、とりわけBRICSを組む新興大国ブラジルと一層接近することになり、米国と対立するチャベスは強力な後ろ盾を得ることになる。
   またエクアドールが加盟すれば、地続きではないにせよ、太平洋に出口をもつことになる。

   南米太平洋岸のチリ、ペルー、コロンビアはメキシコとともに、アジア太平洋圏への通商進出を拡大させるための「太平洋同盟」を組んでいる。メルコスールはエクアドールを加盟国に加えることによって、新自由主義を採るこの「同盟」に地政学的な楔を打ち込むことになる。

(2011年12月21日 伊高浩昭執筆)