共同通信社編集委員室の杉田弘毅記者ら編集委員グループは、東日本大地震・東電福島第1原発大事故を受けて、「3・11 文明を問う」というインタビュー特集記事の執筆を企画し、6月から10月にかけ18回続きとして、全国の加盟新聞社に配信した。世界のさまざまな知識人が登場する。発言は極めて興味深い。今日から6回にわけて、内容を紹介する。
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最初の登場人物は、ゲアハルト・シュレーダ前ドイツ首相(67)。2002年に、原発を2020年代までに全廃する脱原発法を成立させた。同氏は語る。
「チェルノブイリ事故が起きた1986年の8月の社民党大会で、原子力に代わる新技術の導入と、大手電力会社の合意を条件に脱原発を図ることを決議した。電力会社の反対はすごかった。同意しなければ法的に強制する、と通告した。だが合意獲得が好ましかったため、原発停止までの猶予期間を容認した」[感想:これぞ政治家というものだろう。]
「欧州連合や日本は、エネルギー需要を満たすため<3つの音>を重ねて和音をつくる必要がある。1つは風力、太陽光、バイオマスなどの再生エネルギー。二つは省エネ。三つは、脱原発までの過渡期の技術として、気候変動への影響が少ない天然ガスなどを利用すること。日独は技術先進国として省エネの先導役となるべきだ」
「再生エネルギーの発展が期待できるため、中長期的に見れば脱原発は経済的だ。短期的には電力料金の上昇が考えられるが、省エネでこれを抑制できる」
「原発のない世界は可能かという質問自体が、2050年には笑われてしまうはずだ。サハラ砂漠からの送電計画などは当たり前になる」
ドイツの企業連合は、サハラ砂漠などに、鏡で集めた太陽熱で蒸気を発生させる太陽熱発電所網を張り巡らせ、欧州に送電して、2050年までに欧州の電力需要の15%を賄う計画を打ち出している。
2人目の登場人物は、ブラジルのルーラ前政権で環境相を務めたマリーナ・シルヴァ氏(53)。東日本大地震発生を知って真っ先に浮かんだのは、「賢人は他者から学ぶ。自分の失敗からさえ学べない者は愚かすぎる」ということだったという。[感想:まさに日本人が批判されている。]
「政府は原発についてすべてを開示し、原発が与える地球全体への影響を考えつつ、国民と議論しなければならない。透明性がなければ、震災の教訓を生かせない」
「ブラジルでは30年以上も前に砂糖黍をアルコール化する計画を始め、代替エネルギーを開発した。現在、エネルギーの45%が再生可能だ。日本も国を挙げて再生可能で安全なエネルギー開発に投資すべきだ」
「ブラジルの研究では、風力は原発より約2割安いコストで同じ量のエネルギーをつくることができる。水力と太陽光の可能性を秘めるブラジルに原発は不要だ」
アマゾニーア(アマゾン川流域)の密林に育ったシルヴァは、限界が見える「北」の先進国の開発モデルでない「新しいモデル」を模索している。「人類は今、文明の岐路に立つ。判断を誤れば自滅する。前例のない転換点だ」
3人目の発言者は、ゴルバチョフ・ソ連政権で外相を務め、ソ連消滅後にグルジア大統領も務めたエドゥアルド・シェワルナゼ氏(83)。「(チェルノブイリ事故のような)国家的危機の際の政治指導者の責任は、国民に真実のみを語ることだ」。回想録で「あの時、真実を求める戦いに負けた」と、強い自責の念を告白している。 [感想:日本の指導者は東電に丸め込まれた、という印象が強い。]
「チェルノブイリ事故はソ連崩壊の直接の原因ではなかったが、一つの要因ではあった。ペレストロイカ(改革)の真価が問われる最初の試練だった。ゴルバチョフは事故を、グラスノスチ(情報公開)の推進に使った」
だが、「人類は原子力に勝るものをまだ見出していない」として、今は原発の安全性向上が重要という立場をとる。
大事故発生時に情報を公開できるかどうかは、政府の力量次第だ。「国民に真実のみを語ることだ」という氏の指摘は、福島事故で情報隠しを批判される日本政府にとって思い意味を持つ。
(2011年11月13日 伊高浩昭まとめ)