2018年5月7日月曜日

 メキシコの保守派ジャーナリストが大統領最有力候補AMLO(アムロ)の「暗殺教唆」▼「殺し屋ジャーナリズム」糾弾の嵐巻き起こる▼1994年に実例

 メキシコの著名なジャーナリスト、リカルド・アレマン(63)は5月5日、次期大統領最有力候補アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)の暗殺を教唆するとも受け取れるメッセージをSNSで発信、6日にかけて厳しく糾弾されている。

 アレマンは、「ジョン・レノンはファンから殺された」など数人の著名人が崇拝者に殺害された例を並べた後、「AMLOはいつになるのだ」と書いた。

 これに対しAMLO選対幹部タティアン・クロウティエルは直ちに、「彼がペリオディスタ(ジャーナリスト)を名乗るのは許しがたい。彼は自ら働くメディアをも傷つけた」と反撃した。
 著名な保守派論客エンリケ・クラウセは、「危険、無責任、容認し難い、非難すべき、拒絶すべき」と、アレマンへの厳しい言葉を並べた。

 多くのジャーナリストは6日、「#殺し屋ジャーナリズム(ペリオディズモ・シカリオ)糾弾」運動を開始した。アレマンが出演する主要メディアである最大手TVテレビサと11チャネルは、アレマンとの契約を解除、出演番組を打ち切った。

 アレマンは「誤解を与えてしまった。脅迫でなく警鐘を鳴らしたのだ」と言い訳したが、後の祭り。「#」運動派は、殺人教唆罪で検察庁に告発する構えだ。

 大統領選挙は7月1日実施されるが、昨年、選挙戦が実質的に始まっていたころからアレマンはAMLOを敵視する醜聞めいた虚偽すれすれの情報を盛んに流し、顰蹙を買い、「腐敗政権から金をもらって動いている」と非難されていた。

 メキシコのジャーナリズムは長らく、「(体制に)売られた新聞」、「(体制から)
買われた新聞」と揶揄されていた。だが90年代から今世紀にかけての混乱期に報道の自由が増し、体制批判や社会状況批判が急速に増えた。
 このため多くのジャーナリストが、政治家、当局、麻薬マフィアなどの放った殺し屋によって殺害されてきた。警察が殺し屋である例は珍しくない。

 メキシコでは最有力大統領候補だったコロシオが1994年3月、ティフアーナ市郊外で遊説中に暗殺された例が記憶に新しい。この事件の黒幕は、麻薬資金と絡む大物が黒幕だった。
 コロンビアでは1948年、最有力大統領候補JEガイタンが暗殺され、一大暴動事件が起き、これが、その後のゲリラ諸勢力と政府軍との長期内戦に発展した。

 守旧派や右翼の懸念を代弁するアレマンのような暴言がはびこる裏には、プリパニスタ(PRI・PAN両党支配)体制の危機がある。AMLOは同体制の外にいる大物政治家で、大統領の椅子に3度目の挑戦をしている。
 最初の06年選挙で実質的に勝ちながら投開票の不正で勝利を奪われるという苦い経験を持つ。12年の前回は現政権の金権攻勢に敗れた。

 今回は、メキシコに厳しい要求を突きつけるドナルド・トランプ米大統領に屈辱を味わわされてきたPRI現政権の無能、腐敗、不人気からAMLOに勝機が訪れている。AMLOも意識的に「左翼から中道・進歩主義へ」と印象を和らげる言動をとっている。