2013年6月11日火曜日

「世界」誌が、スペイン市民の変革運動ルポを掲載


 月刊誌「世界」7月号(6月8日刊行、岩波書店)に、「スペイン 行動する市民が築く民主主義」という、優れて興味深いルポルタージュが載っている。文・工藤律子、写真・篠田有史のおなじみの二人の最新の仕事だ。

 2011年の5月15日(日本では沖縄施政権返還記念日だが)、マドリーの中心部をはじめ全国各地で、効力をほぼ失った資本主義政治・経済体制を突き上げる若者たちの一大抗議運動が展開された。全国で600~850万人が参加した。これを「15M」(5月15日決起)と呼ぶ。

 工藤は「15Mはスペイン人に新しい政治文化をもたらし、人々の発想を変えた」と指摘する。二人は毎年現地で取材しているが、3回目の今年の「15M」は「怒りから反乱へ」というスローガンを掲げていたという。

 記事は、予算削減で悪化する公共教育に異議を唱える運動「緑の潮流」、質の低下を招く医療機関民営化に反対する運動「白い潮流」、住宅ローン被害者を救う団体「PAH」、貨幣を介在させない相互扶助制度「時の銀行」などの活動を紹介する。

 すべては、金銭的豊かさでなく、真に豊かに生きる「ビビール・ビエン」という考え方に裏打ちされている。記事に登場する人々は、弱肉強食の新自由主義にまで堕落した資本制に代わる、参加型民主主義実現を通じ、市民意思で富を配分する政治・経済形態を志向している。

 すなわち、「よりよいもう一つの世界」の構築を志すアルテルムンディズモである。

 記事は日本人に、有権者意思とかけ離れた政治家との決別を訴えるが、多数派有権者の優先課題を明確にして政治家に突きつけるくらいの行動がとれないものか、ともどかしがる。

 因みに「世界」本号には、3月に死去したベネズエラ大統領ウーゴ・チャベスの半生を綴る、イグナシオ・ラモネの「一人の革命家の道のり」(坪井善明訳)も掲載されている。ラモネはアルテルムンディズモの旗頭の一人である。チャベスも、それを理想としていた。