メキシコ大統領選挙(7月1日)の最有力候補AMLO(「アムロ」ことアンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール)元メキシコ市長は6月10日、チアパス州のグアテマラ国境沿いにあるタパチュラ市での遊説中、「当選したら」と前置きし、「相互に敬意を払い合う条件さえあれば、ドナルド・トランプ米大統領と会う」と述べた。
トランプ大統領と会うことになれば、「移民問題などを平和裏に解決するため、米墨加3国と中米7カ国(グアテマラ、ベリーズ、エル・サルバドール、ホンジュラス、ニカラグア、コスタ・リカ、パナマ)で<開発のための同盟>(仮名)を結成すべく提案する」と述べた。
これは、故ジョン・ケネディ米大統領がキューバ革命後の1961年、ラ米とりわけブラジルの「共産化」を防ぐために開始した「進歩のための同盟」(ALPRO)計画に倣った政策。ケネディは同計画のため、米欧日で総額200億ドルの費用を賄う考えだった。だが63年のケネディ暗殺で、この計画は尻つぼみに終わった。
その後、64年のブラジル軍事クーデターが発生。軍事政権が強権と、人道犯罪を厭わない弾圧で、反共政策を遂行する。これを米国が支援した。だが東西冷戦終結から29年経った現在、反共政策は特にない。
北米から中米地峡にかけての地域では長年、中米からメキシコへ、メキシコから米国へと経済難民が流入し、大問題になってきた。この地域には麻薬密輸、武器密輸、組織犯罪、人身取引などもある。根底には社会に渦巻く巨大な貧困問題がある。
AMLO候補の「開発のための同盟」計画には、それなりの意味がある。北米自由貿易地域(加米墨)と米国・中米・RD自由貿易地域の連携による計画になるはずだが、この地域にはすでに幾つかの多国間開発計画があり、それらと重複しかねない難点がある。
また、移民流入に厳しく、メキシコと中米を見下す発言をしてきたトランプ大統領が分担資金を出すかどうかもわからない。
しかし「発想豊か」なのがラ米政治家の特長だ。実現するか否かは別問題なのだ。AMLOは2位候補に支持率で26ポイント差をつけている。自身も9日、故郷のタバスコ州ビヤエルモーサ市で「私の当選が覆ることはない」と言い切った。
さらに、「大統領になったら公邸でなく自宅に住む。家族と私費で食事する。豊かな政府と貧しい国民という構図があってはならないからだ」とも語っている。